変わりつつある、リーダーシップ・マネジメントの勝ちパターン

小田木朝子氏(以下、小田木):そして次に、この環境に対応するためにどんな変化が組織の中に求められているのか? について、沢渡さんからシェアいただきたいなと思います。

沢渡:はい、ありがとうございます。私が書籍『バリューサイクル・マネジメント』を通じて、あるいは最近、企業の経営者向けの講演でしつこく示している説明を手短に説明したいと思います。向かって左側、統制型(ピラミッド型)と書いていますが、このやり方が過去50年から60年、日本の組織が勝ちパターンとしてきたマネジメントモデルだと、私は考えています。製造業型モデルと書いていますが、製造業を例に取るとわかりやすいと思うんですね。

例えば、社長あるいは企画部門が「この車を作る」と決めて、各組織は上にならえでプロセスをビシッと作って、基本的に決められたことをこなしていれば答えを出せる・勝てるやり方だったんですね。過去50年から60年、このモデルが勝てた時代においては合理的に機能していた。ところがその統制型一辺倒のやり方では、もはやうまくいかなくなってきているのが今の過渡期かなと。

そうすると部分的にでも、あるいは部署単位でも、もっと言ってしまえばチーム単位でも右側のオープン型のやり方。オープンにつながってオープンに議論して、オープンに能力なりモチベーションがある人を集めて、小さくトライして小さく失敗して、失敗は次の成功につなげていくという、アジャイルなやり方に変えていかないと、既存の問題・課題は解決しない。

あるいは新しい価値を生み出すことが難しくなってきている、ということだと思うんですね。誤解なさらないように伝えたいのですが、この絵は別に二項対立を煽るものではありません。統制型は統制型の合理性がある、オープン型はオープン型の合理性がある。

大切なのは今の環境であるとか、あるいは組織の目的・ゴールを今一度見つめ直した上で、どのやり方が正しいのか? 今までのやり方だけでは勝てない領域に、どう自分たちなりに答えを見出していくのか、行動していくのか? ここをみなさんにファシリテートしていただきたい、組織の中で景色合わせをしていきたい、このように考えています。

小田木:ありがとうございます。「リーダーシップのスタイルも左のやり方から変わらないといけないと感じます」というコメントもいただいております。

沢渡:おっしゃるとおりだと思います。リーダーシップの勝ちパターン、マネジメントの勝ちパターンも変わってきているよという話なんですね。

活躍機会を“悪気なく”与えられなかった人たち

小田木:ありがとうございます。今はすごく広く定義しながら話をしていただいたと思うんですけれども、ここから今日のテーマの「多様な人材の活躍とダイバーシティ推進」。さらにはその先の女性活躍。こことどうつなげていくのか? というところに、もう一歩踏み込んで引き続き話をしていただいていいですか?

沢渡:はい。この統制型とオープン型の図を、別の読み解きをしたのがこのスライドです。過去50年から60年、日本が法制度も含めて最適化してきた統制型(ピラミッド型)のやり方は、言い換えると同質性の高い人たち、わかりやすくいうと「男性正社員が長時間かつ長期間、1日8時間以上残業もいとわず長期間中心雇用され、新入社員で入った会社を定年退職するまで長期間顔を合わせて決められていることをこなすモデル」。あるいは、なにかあれば都度都度ディスカッションして解決していく、こんなようなモデルだったわけですね。

右側にいきます。しかしながらVUCAの時代においては異質な人たち、これまでとは違う特性を持った人たち、あるいは組織の中に居てこれまでは制約条件なりバイアスなりカルチャーなりによって意見を言えなかった、あるいは活躍機会が悪気なく与えられなかった人たちが、それぞれに最適な時間と場所で活躍できる働き方に変えていく必要がある。例えば今は副業人材の活用も盛んに行われ始めてきています。

ロート製薬さん、ライオンさんなど名だたる企業が副業人材の活用、副業を解禁し始めていますけども、そうすると所属する組織も1つとは限らなくなりますから、それぞれに最適な時間と場所でつながって行動できる、つながってコミュニケーションできる、つながって成果を出せるような制約条件を解いていかないと、副業人材は正しく活躍できません。間接業務やコミュニケーションの手間で死にます(苦笑)。過去に答えのないテーマに向き合って成果を出していく、それが求められてきている。このような読み解きができるかと思います。

小田木:環境の変化とマネジメントスタイルの変化。その変化の中で成果を出していくための要件として、異質な人たちでちゃんと成果が出せるようになろうね、と。こんな感じでつながりがだんだん見えてきている感じですかね。

沢渡:もう1つ補足しますと、統制型(ピラミッド型)モデルも、答えが決まっている領域・答えが見えている領域においては極めて合理的です。マネジメントする側・される側双方にとって合理的です。なぜなら決まったことをやらせれば答えを出せますから、マネジメントする側は楽なんですね。

マネジメントされる側も、言われたことをこなしていれば答えを出せます。終身雇用のもとに定年まで幸せに暮らせます。ですから考えなくていいんですね。こんなに合理的なことはないです。しかしながら「変化のパラメーター」が入った瞬間に、たちまち思考停止するというリスクがあります。なぜなら自分たちで答えを出していくやり方を経験したことがないからです。

「自分たちで答えを出していくためのマネジメントの経験」のない人たちがすくすく育っていってしまうので、そうすると部分的にでも、あるいはなるべく早い段階でオープン型のやり方もトレーニングだと思って経験していかないと、組織全体・国全体が思考停止・行動停止、停滞からの衰退にまっしぐらですよ、という話だと思うんです。

DXという言葉を“上の句と下の句”に因数分解して考える

小田木:もう1つ沢渡さんに解説していただきたいなと思うのは、オープン型の仕事のやり方で正しく成果が出せるようになるために必要なものはなんですか? そこまで定義していただいて、次に進んでいければと思います。

沢渡:はい。私はこのオープン型を乗りこなしていくため、VUCAの時代を乗りこなしていくためには「3つのシフトが大事」という話を、日々しています。最近なんといってもDX、デジタルトランスフォーメーションをテーマに取材を受けたり、あるいは講演したりする機会が多いものですから。

DXと紐付けて、今日の女性活躍推進・ダイバーシティ推進も中原さんと一緒に議論していきたいのですが、VUCAおよびDXの時代において「3つのシフトが必要です」という話をしています。「デジタルワークシフト」「マインドシフト」「スキルシフト」です。DXという言葉を「D」と「X」。“上の句と下の句”に因数分解して考えてみましょう。

小田木:上の句と下の句(笑)。

沢渡:Dは「デジタル」のD、だからデジタルワークシフトが必要、ここはご理解いただけると思うんですね。デジタルはあくまで手段で、大切なのはトランスフォーメーションで如何に組織を変革していくか、そして変化に向き合っていくか? 下の句である「X」を進めるためには、マインドシフトとスキルシフトが求められます。

マインドを変えていく。今までの固定的な環境ではなく、異質な人と交わりあって異質な人とパフォーマンスを出していけるように、心をオープンにしていくマインドシフト。もう1つがスキルシフトです。マネージャーのスキル、プレーヤーのスキル、組織全体としてのスキル。ここにアップデートをかけていかないと、デジタルだけでは変革は起きません、うまくいきません。

こういう話だと思うんですね。この3つのシフトをどう促していくか? そう考えていくと「多様性がある人材が正しく活躍できる組織」を作っていくことというのは、このマインドシフト・スキルシフトが支え・基盤であると言っても過言ではないと考えています。

3つのシフトは、人事組織単独で実現できますか?

小田木:ありがとうございます。ここまでが今日の話の前提になる、環境をどう見るか? その中で必要なものはなにか? という話だったと思うんですけど。ここと、今日はダイバーシティ推進・女性活躍をつなげていくという流れで話を展開していきたいと思います。ここまでで中原さん、なにかコメントいただけることはありますか?

中原淳氏(以下、中原):物事を考える時に、僕は「MAOモデル」を好んで使っています。「モチベーション」「アビリティ」「オポチュニティ」です。

デジタル化の問題で言うと、「デジタル化という機会」(オポチュニティ)を与えたとしても、それを「役立てる能力」(アビリティ)と「役立てようと思う気持ち」(モチベーション)がなければうまくいかないというのは、おっしゃるとおりだなと思いました。

沢渡:鮮やかです、ありがとうございます。

小田木:鮮やかにありがとうございます。

沢渡:もう1つみなさんに考えてほしいんですけれども、この「MAOモデル」およびデジタルワークシフト・マインドシフト・スキルシフトの3つのシフトが、人事組織単独で実現できますか? ダイバーシティ推進組織単独で実現できますか? という話です。

デジタルワークシフトであれば、情報システム部門とコラボレーションすることによって解決する部分かもしれないです。もっと言ってしまえば、この3つのシフトを促進していくためには経営と対話しないと。経営マターですから、風穴が開けられないはずなんですね。あるいはものによっては、総務部門とのコラボレーションが必要かもしれないです。

なにを申し上げたいかというと、みなさん自身・私たち自身がオープンに異なる部署・異なる職域の人たちとコラボレーションを仕掛けていって、そこから風穴を開けていく、一歩踏み出す。ここがなにより大事。今日はそういう意味づけ、持ち帰りもぜひしていってほしいなと思います。

「女性支援モード」から「全員参加のダイバーシティ推進」へ

小田木:ここまでの話を、今日のテーマのダイバーシティ推進・女性活躍とつなげていきたいと思うんですけども。こんなスライドを用意してみました。

これはなにを表現させていただいたかというと、左側がこれまでわりと社会通念上で思われていたかもしれない女性活躍。

右側が、今日のここまでの環境と組織に必要な変化に当てはめた時に、それをどう捉え直すか? 必要な着眼点。「女性支援から全員参加へ」と表現しました。どんな違いがあるのか、簡単に解説しますね。

左側は「女性支援」というニュアンスでの女性活躍。どういう文脈で語られる女性活躍か? というと、女性は組織の中で弱い立場で弱い存在じゃないですか。機会に見舞われず活躍の場がないというのがかわいそうですし、一方で子育てとか介護とかいろんな制約を抱えがちなので、この方たちに働き続けてもらうために必要なサポートをちゃんとしていかなきゃいけないですよね、と。

これが「女性支援モードの女性活躍」。なので、わりと制度整備が取り組みの中心だったかなと思います。それでどうシフトしていきたいかというと、もはや女性という字が入っていないんですけれども「全員参加へ」と。

どういうことかというと、女性も含めて全員でなにに向き合っていくのか? 「組織の成果に向き合っていく」というのが、右側のテーマかなと思います。男性中心の硬直した組織を変えていく必要があるよね、と。これは沢渡さんに、さっき「ピラミッド型からオープン型へ」というお話で語っていただいた部分かなと思います。

そして女性だけではなくて、働く人の事情や価値観、そして個性や強みというものが本当に多様化していますよね。その多様化を活かしながら、誰もが強みを発揮して成果に貢献していく組織作りというものが、女性活躍・ダイバーシティ推進という文脈においても必要な前提ではないでしょうか。

「誰もがいきいき働く職場」というのは、結局、変化に強い成長企業。こことリンクしてくると言えるがために「全員参加のダイバーシティ推進」「多様な人が活躍して成果に貢献できるチーム作り」。これらを今日のテーマの前提にしていきたいというのが、この図になります。

これまで“気づかない下駄”を履いてきた、男性たち

小田木:ぜひ中原さんからコメントや補足をいただきながら、ここまでの話とここからの話のつなぎ込みをしていけたらと思うんですけど、どんなふうに見ますか?

中原:女性活躍推進という意味でいうと、最初に組織ぐるみの女性支援というものは、結局、女性個人の努力に期待するのではなくて。会社ぐるみで「管理職・リーダー層がメインになりながら、不利な立場に置かれているものを如何に是正するか?」という考え方が大事だと思うんです。

男性は、今まで“下駄を履いてきている”んですよ。しかも“気づかない下駄”です。自分は、下駄を履いてここまできたことには気づいていないわけだよね。でも明らかな「下駄」なわけです。だからそういう意味でいうと、如何に女性をエンパワーメントしていくか? ということは、まずもって大事なんだと私は思っています。

その証拠に、例えば女性の昇進欲というものはどこでなくなるか? というと、キャリア意識は組織に入った時とほとんど変わらないけど、2年目になって組織に対して幻滅する。「こんな組織でやってられるか」と思うわけだよね。つまりなにが問題かというと、個人の問題じゃなくて組織に問題があるということなんです。

そういう意味でいうと経営層。さっきのみなさんの言葉で言えば、上位層・経営層・管理職・リーダー職の学び直しがどうしても必要になってくる。その時に必要なのは下駄の問題ですよね。ジェンダーの格差を意識させ、是正していくことです。例えば、やるべきことのひとつは、仕事の振り方にジェンダー差があるのではないか? ということですよね。皆さんの会社では、裁量のある仕事、その会社の競争優位を支える仕事、中核の仕事が誰に振られていいますか?

これは経験格差で、男女ですごく違いがあるよね。メンタリングとかフィードバックも格差がある。あとそれを支えているのが、どなたかもおっしゃっていたけどアンコンシャス・バイアスという問題があって、これはややこしいんですよ。アンコンシャス・バイアスってアンコンシャスなんだから、言葉にできないわけ。

沢渡:悪気なく起こっていたりしますよね。

中原:悪気もないし「自分がアンコンシャス・バイアスを持っているかどうか」すら言葉にできないわけですよ、無意識下のことだから。だからこれは「あるんだ」ということをなんらかのかたちで気づいていって、それと付き合っていく方法を考えていったほうがいいんじゃないかなと。

ちょっと高度なレベルかもしれないけれども、僕は究極はここだと思っているんですよ。

誰もが人生の中で1回は“訳あり”になる可能性はある

中原:「女性も含めて、誰もがいきいきと働ける職場・チームを作っていくこと」が、本丸オブ本丸だと思っているんですね。それはなぜか。日本の人材市場には、2つ大きな難問があります。1つは「めっちゃ働かなきゃいけなくなっている」ということですよね。沢渡さんはいつまで働くの?

沢渡:私はもう、死ぬまで働きたいと思っていますけどね(笑)。

中原:そうか、じゃあ死ぬ時は畳の上じゃ死ねないね(笑)。

沢渡:ダム際で働きながら死にます(笑)。

中原:(笑)。後は人手不足ですよね。だから結局のところ、全員参加型・全員能力発揮型で。如何にわけがある人でも、なるべく労働市場に参画していくような働き方を行わなきゃならないということなんですよ。例えば仕事人生が長くなれば、誰もが人生の中で1回は“訳あり”になる可能性はあるわけですよ。

つまり「日本人男性正社員」みたいな、いわゆる「ザ・日本企業の働き方」はできないんですね。育児・介護・病気などがあるでしょう。そういう意味でいうと、誰もがその自分の境遇とか状況に応じたかたちで、いきいき働ける職場を作るというのが究極は本丸だと僕は思うんですね。

この段階がリプレイス(交換)じゃないですよね。女性社員がまったく必要がないというわけではなく、女性支援にアドオンしたかたち、あるいはそれにリプレイスするのではなくて、それに加えるかたちで全員参加型・全員発揮型のチームや職場を作っていくということが大事と、そんな感じです。

小田木:本丸オブ本丸というその表現、いいですね。誰もが働きやすい職場作り、全員参加で訳ありでもきちんと参加して、チームの中で成果に貢献できるチーム作り・組織作り。ここが本丸であり、その中に女性活躍・ダイバーシティ推進というものも含まれて議論されたほうがよい、という理解でいいですかね?

中原:そうですね。マイノリティが働きやすい職場というのは、誰もが働きやすい職場なわけですよ。最近、僕は体調を崩すこともあるるんだけれども。体調を崩してくると、いわゆる「8時間ずっと働け!」といわれると、けっこう厳しいんだよね。

そういう意味でいうと、自分の働きとかバランスにあったかたちで働いたほうがいいですよ。そういう時期が人生のある時に必ず来ると思うんだよね。それを許容していくということが、非常に大事なんじゃないかなと思うんですね。

小田木:ありがとうございます。誰もが訳ありになる可能性があると。

沢渡:私も経験あるんですよ。サラリーマン時代、チームのマネジメントをしていた時に、育休明け時短勤務の女性に合わせて仕事のやり方を再設計したら、私自身が楽になった経験があります。無駄な待ち時間がなくなったり、あるいは集中力が高いタイミングで会議ができたり。今までと同じやり方をしていたら、苦しいだけかもしれない、不便なだけかもしれない。

制約条件がある人に合わせて仕事を再設計すると、その当事者以外の組織の他の人たちも幸せになるというのを、私は肌感覚で実感しましたね。こういう成長体験とか快感体験を増やしていってほしいなと思います。